my favorite songs 005:点

五題目は『点』
句切る『点』、繋ぐ『点』。『点灯』された『点』の光は『点滅』しつつ消えていく。
多義性のある文字だけに、皆さんいろんな使い方をされて面白い御題でした。
『点描』として使った方が多かったのは意外でした。


自作

あおあおき空よ東に上がる観測風船は点と消えゆく

上空の気象を観測するために、『ゾンデ』という観測風船を空へ上げます。
これは、きまった時間に世界中で一斉に上げるのですが、天気のよい日は白い小さな点となってからもいつまでも見えています。
自歌ですが、無意味な句跨りが拙いですねえ。

あおあおき空よ観測風船はかなた東の点と消えゆく

のほうがちょっとましでしょうか。


皆さんの歌から、七首ご紹介。


太陽の黒点ふえてゆく春に笑いの止まらぬ夢を見ている (夏実麦太朗)

上の句『太陽の黒点がふえてゆく』のと、下の句『笑いの止まらぬ夢を見る』のとは、一見何の関係もありません。
では、全くつながっていないのかというとそうとも言えず、何か不気味なイメージで呼応しあっている。
宇宙的規模の現象とごく個人的な夢との妖しいリンクに色々想像をかきたてられる歌です。


何もかも濁点だらけにしたくなる今日の私のとがった心 (五十嵐きよみ)

『濁点だらけにしたくなる』意表をつく表現にもかかわらず、不思議と共感できます。
誰にでもある感情を、独自の刀で切り出す。これぞまさに「短歌力」だなあと感心させられました。


花に似た深い亀裂を抱いている(おわり、はじまり)点炭をつぐ (村上きわみ)

点炭とは茶道用語で、「炭手前で、最後に点ずる小形の炭」のことだそうです。
点炭の断面が開いた花弁に見えます。
『花に似た深い亀裂』と、いささか激しい感情がよぎりつつも静謐を保つ。
『点炭をつぐ』ことによって、波打つ感情に句点を打つのです。
ほとんど凄まじくさえある。


兄二人に可愛がられるいもうとなら点灯夫について行ったよ (壬生キヨム)

ノスタルジックな『点灯夫』という言葉、『いもうと』というひらがな表現。
なんだか童話的な、宮沢賢治の世界が思い浮かびます。あるいはいしいしんじとか。
兄二人(おそらく双子)の微妙な喪失感がうまく表現されている。


月のない闇にさらわれないようにひんやり光る点字ブロック (本間紫織)

闇にぼんやりと浮かび上がった点字ブロックの細い道。
普段気にしていなかった黄色い道が、ふと異界から帰還するための命綱に感じられる。
心細い夜道の帰途によぎったファンタジックな妄想が輝いています。


濡れそぼる街は今でも雨粒が初めに染めた点を憶える
 (出雲もこみ)

乾いたコンクリートの上に降りだした夕立が大粒の黒い斑点を刻む。
やがて、水溜りも浮く濡れ野原となるのですが、降り始めの点々を街が記憶しているというのです。
街の雨粒に対する歓びと痛みの記憶が、非常に詩的に表現されています。


アルコールランプなのかもしれなくて点という字を書いてはもやす (竹中ひいろ)

いっしゅん「?」となる歌ですが、『点』という文字をよく見ると、アルコールランプの形状に見えてきます。
その『点』という文字を紙に書いて、子供のいたずらのごとく次々と燃やす。
だんだん無心になっていくような静かな狂気が妖しい。