2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

060:プレゼント(ありくし)

輪郭が薄まっていく舟に乗り思い出せないプレゼントあげる

059:貝(ありくし)

桜貝ひとつさざめくさみしさの単位でかぞえうらんでおくれ

058:涙(ありくし)

バファリンと一緒に飲んだ水たちのかつて涙であった可能性

057:紐(ありくし)

晴れる紐、雨の降る紐あるだろう 目を閉じてゆっくりと引いてみる

056:晩(ありくし)

「どっちかっていうと晩ごはんだよね」赤信号待ちながらキミは

055:きっと(ありくし)

単線を春の過客は行くだろう明日はきっと帰るであろう

054:武(ありくし)

鉱物はたちまち熔けよ あかねさす玄武岩[バサルト]流る土地は怒りて

053:渋(ありくし)

ゆるゆるとマリアナ海溝沈みゆくチョウチンアンコウの渋面を見つ

052:世話(ありくし)

ながいこと世話になったと海に降る雨ならやがてヒトデとなりぬ

051:囲(ありくし)

たとうればあやうい青のまなざしに囲まれ、それが蛙のようで

050:活(ありくし)

鰓呼吸を活かし潜るは波女 春雲、視界追う雪、子らへ えらこきゅうをいかしもぐるはなみおみなはるぐもしかいおうゆきこらへ

049:敷(ありくし)

柔らかい蛹をそっと敷きつめてとおい、遠い声を待ちます

048:謎(ありくし)

石化した月の光に謎めきて嘴濡らす高枝のヒト

047:ふるさと(ありくし)

ふるさとに今朝降ることにした雨のためらいこごえ雪とうつろう

046:犀(ありくし)

ぼくのさいは普通の犀より小さくてでもいぬよりはずっとおおきい

045:罰(ありくし)

血はめぐるただ千年の罰として 赤き桜桃また一つ熟れる

044:ドライ(ありくし)

三年に一度途方もない嘘をつくドライアイスかじる福田は

043:輝(ありくし)

夜の海あと幾千の輝きが残っているか仮定してみて

042:稲(ありくし)

風の歌が得意な姉は音の無い稲妻聞いて飛び出したまま

041:喫(ありくし)

寒風の喫煙席に身を沈め「愛でたばこはやめられません」

040:勉強(ありくし)

「蕎麦打ちの勉強」とだけ残したる十年ぶりの父 今朝帰る

039:蹴(ありくし)

天高くラグビーボール蹴り上げてそのまま消えていく鰯雲

038:的(ありくし)

お互いに鰓少しずつ食いあって淡水魚的対処法だね

037:牙(ありくし)

約束の牙をあげよう たよりないおもいでとして紙につつんで

036:右(ありくし)

神す代の右にもおはす民の名の乱すは面にきみの寄す身か かみすよのみぎにもおはすたみのなのみだすはおもにきみのよすみか

035:むしろ(ありくし)

むしろ悲しき春の嵐に耳を立て輪郭にじむ路地の黒猫

034:開(ありくし)

南方で聞きし目白の囀りは澱のましろき悔いを騒がす

033:滝(ありくし)

「こんにちは魚屋ですか」滝壷です「ごめんまちがい」多分へいき

032:詰(ありくし)

カラフルを詰め込んでいく空箱がざわつきだした瞬間に春

031:大人(ありくし)

子供にはなりきれなかった大人らの寓話という寓話をあつめて