2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

090:舌(ありくし)

たよりない舌先だけの記憶しか残っていない 小匣を閉じる

089:喪(ありくし)

むごいほど底無し色の喪失よ五月の空の五月の傷の

088:訂(ありくし)

おもむろに訂正された顔をして斜め後に跳んだ蛙よ

087:チャンス(ありくし)

チャンスにはピンチヒッター出てきますピンチのときはベンチにいます

086:片(ありくし)

片腕がピーピー豆に絡まって立ち上がれない土へ還ろう

085:甲(ありくし)

銀傘の下は高いぞ甲子園ライトスタンド中段から見る

084:西洋(ありくし)

たよりない男の息吹西洋化食い止めんとて綿毛吹く吾は

083:邪(ありくし)

邪な左目を閉じ火加減を見る煮卵の火加減をみる

082:苔(ありくし)

二年ほど塔を昇りつづけてる螺旋の床は苔むしてくる

081:秋(ありくし)

哀しみの結露秋雨前線はまだ染めやらぬ紅葉より出づ

080:たわむれ(ありくし)

西の雲疾き朝にはたわむれに数歩踏み入る蜘蛛の領域

079:帯(ありくし)

草帯を解きつ匂えよ處女らは膝寄せあって摘まるる不穏

078:査(ありくし)

深海を探査するため深海に潜るしんかい6500

077:転(ありくし)

苔石の転がりてまた十年の坂道登るときの鼻歌

076:桃(ありくし)

金のでも銀のでもなく桃色の桃と答えて桃をもらった

075:溶(ありくし)

流氷が潮に痩せゆきその上のペンギンも半ば溶けかけている

074:無精(ありくし)

生きのびることに無精な獣らは流氷の上瞳孔も透く

073:庫(ありくし)

異常乾燥注意報の無人島で火薬庫ひとつかかえてくらす

072:狭(ありくし)

縁取りの狭き畦道夕暮れの子守唄溶く森の色も

071:籠(ありくし)

のはなつむひめのみことの春籠の匂いや淡し毒花もまた

070:芸(ありくし)

ゆる坂に温泉芸者つらなりて消えゆく先の連続鳥居

069:カレー(ありくし)

前世紀なかばに証明済みのこと「ファンタとカレーはあわない」を、今

068:巨(ありくし)

巨きさの中に虚ろが育まれすべてがのまれていくようなこと

067:鎖(ありくし)

切り口の錆びた鎖を見ています。もう十年が過ぎていたのか

066:息(ありくし)

終末の吐息若葉の霜となり光に消ゆるまでのたまゆら

065:酢(ありくし)

キラキラと小鉢にゆれるもずく酢のおもいでなんてあったっけオレ

064:志(ありくし)

海峡を連なり渡る志願兵 父のシルエットを探しつつ

063:久しぶり(ありくし)

白魚の手のような魚を震う手で久しぶりならそっと掬うよ

062:軸(ありくし)

キミが傘ボクが軸だけ選り分けてくつくつ静かな雨の日の鍋

061:企(ありくし)

朝露に張り替えられたる蜘蛛の巣よ 決して実行されぬ企て