2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

048:アルプス(有櫛由之)

托卵の鳥の心のはしきやし北アルプスに甲高き声

047:繋(有櫛由之)

花びらの列は蟻へと繋がりて折りたたまれて穴にしまはる

046:間(有櫛由之)

ポワンカレつづきの予想つぎつぎとはずれはずれて 束の間の雪

045:喋(有櫛由之)

喋らない鵥(かけす)あるいは告解は真昼の巻積雲に溶くらむ

044:日本(有櫛由之)

日本に百万回の猫のをり一度だけ木蓮として散りしも

043:慣(有櫛由之)

カラダにはまだ慣れなくて。草の音で ものがたり、とくちびるに漏る

042:若(有櫛由之)

上甲板に若き気象観測士は一本の燭、三時「遠雷」

041:カステラ(有櫛由之)

カステラを知らない国に伝へたい そのくにの子をいつくしみたい

040:誇(有櫛由之)

甘い針にわづか誇りを柔らかい触角に蜂、滴る愛を

039:銃(有櫛由之)

古書店に潜む銃身黝黝として原色硬骨魚類図鑑

038:イエス(有櫛由之)

焦がれゐし少年イエスに逢ふもかなはず春ひさぐひとのやさしさ

037:恨(有櫛由之)

春蝶の蛹を背負うとが人のなにも恨まぬ蒼き眸は澄む

036:少(有櫛由之)

山姥のかたりはやまず夕づつのあかりも少しすぎたる夜寒

035:後悔(有櫛由之)

ことだまよ あるいは蘆原(あはら)の青鷺よ 後悔さへも追風の小夜

034:勢(有櫛由之)

カメリアの蘂にまびれてをとめごは緋の勢ひに越ゆる、何橋?

033:夏(有櫛由之)

大腿に退廃兆す初夏の飛沫したたる鉄と火と血と

032:猛(有櫛由之)

春雷の後の尖晶石の日も猛毒は何処に潜まむや

031:はずれ(有櫛由之)

長楕円軌道ははずれ行先を失くした朝にはつか鳴るテレフォン

030:財(有櫛由之)

波際に黄色い財布照らされつ しあはせなどは入つてをらねど

029:逃(有櫛由之)

なつかしい目をした魚に告げられて南へ逃げる兄と妹

028:幾(有櫛由之)

白骨の色のあかりが幾重にも降りしく夜にひとは黙する

027:コメント(有櫛由之)

パブリックコメントを告ぐる歌声の霞みて淡く天使めきたる

026:期(有櫛由之)

ひさかたの月夜に醒めしおとひとは初期設定の睛もて笑まひぬ