2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

045:売(有櫛由之)

渓のそら龍のかたちに夕焼けて螢子売りの皺かげりたり 渓:たに

044:らくだ(有櫛由之)

われらは夏の何の比喩はや月光のらくだの瞼ゆるやかに閉づ

043:旧(有櫛由之)

こひこくとふ郷土料理を待ちわびて旧街道の鄙の家に雨

042:特(有櫛由之)

さ乱れに黝き形なす特牛ゆめの彼岸に歩み止めたり 特牛:ことひうし

041:扇(有櫛由之)

今日は左手の薬指で中の強さの扇風機を止めました

040:清(有櫛由之)

岩肌の玄を湛へて真清水のたまゆら震ひ彌勒めくかも

039:せっかく(有櫛由之)

陽あたりにせっかく咲いた芍薬を剪る六月の水の昏さよ

038:読(有櫛由之)

葩をふふみて唇を読みあつて長い名前の虫をかぞへて

037:療(有櫛由之)

療養の鯉は痛まし暮れかかる水面をはつか乱すあめんぼ

036:バス(有櫛由之)

細道はきりぎしに沿ひて見送りしバスは岬を出でつ隠れつ

035:液(有櫛由之)

ゆるゆると液化してゆく鰐の背のやうにゆくりなく耀ふ比喩

034:前(有櫛由之)

草矢手に少年一騎駆けの夢前川に菜の花の黄揺る

033:逸(有櫛由之)

つまり懦夫ひとりに予報されざりし雨は逸れずに降りたらむとよ

032:昏(有櫛由之)

五月闇わづかに昏きほほゑみに何処より匂ふ栗花かなしき 栗花:りつくわ

031:認(有櫛由之)

おまへより大きく剥けたゆで卵の殻だ認めるだらう、おとうと

030:物(有櫛由之)

五月雨に脆弱性は兆しけり矢庭に植物図鑑伏せむ

029:尺(有櫛由之)

尺蠖は伸びつつ吾は蹲みつつ五月 愁ひをうらがへしをり

028:改(有櫛由之)

さきのよの火付盗賊改が幽かに兆すますらをの眉