2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

025:滅(有櫛由之)

シトラスの光は未明ともされて滅びの朝の窓をいろどる

024:妙(有櫛由之)

ひとりだけ奇妙に濡れた影をひき「それは遠く」と思ったのです

023:不思議(有櫛由之)

北国の不思議な話を水鳥の声できかせてくれる老人

022:梨(有櫛由之)

忘られし梨の実に雀蜂ありておきをつけよといひてうなりぬ

021:仲(有櫛由之)

蠟製の果実をかはす をのこらはたがひに仲間とよびあひたくて

020:嘆(有櫛由之)

遅霜の傷も嘆きもおぼおぼと柔くつつみて春の蓬葉

019:同じ(有櫛由之)

だれにともなく綯ふ愛のものがたり声音の同じ人より聞きぬ

018:闘(有櫛由之)

セン闘いんとしての日々にも歯車のひとつヒトツと毀レテユキヌ

017:彼(有櫛由之)

うすらひはあさの日にはやとかされぬ彼は名付けられなかったものたち

016:仕事(有櫛由之)

静謐の仕事のあとの鴉売り ゆめのほうでは林檎うりをり

015:吐(有櫛由之)

白い薔薇吐きだしつくし伏した人 おまへやさしいひとだつたねえ

014:更(有櫛由之)

しほからいたましひ青暗(あをやみ)に零し更夜下弦の月に掬はる

013:極(有櫛由之)

熱帯の驟雨赦せよほつほつと孤独に燃ゆる極楽鳥を

012:わずか(有櫛由之)

ささぐ手に享くる氷水(ひみづ)よわづかとはいへどわづかに鹽含みゐて

011:習(有櫛由之)

白鷺のしき降る夕べ草笛を習わなかった吹きかたでふく

010:賞(有櫛由之)

呼んだかい?降りそむ雨を見上げつつ賞金稼ぎのような泣き顔

009:テーブル(有櫛由之)

春の野にテーブルと椅子向かひあひ それぞれの脚 それぞれの花

008:瞬(有櫛由之)

うつつにも夢にもうすらひのなごり朝瞬きのメジロまぶしも

007:別(有櫛由之)

ゆるやかな別れ道ならそれぞれに(種を蒔きたい何の種でも)

006:券(有櫛由之)

嘴太に入場券を攫はれて遠い山だけ眺めっぱなし

005:叫(有櫛由之)

夕空に不在を叫ぶ紅椿一輪の咲きたちまちに散る

004:やがて(有櫛由之)

やがてやむ春のむら雨ははそはの子を抱くかひな白きもかすみぬ

003:各(有櫛由之)

駅ビルのエレベーターは各階に開けっぱなしの群ホトトギス

002:甘(有櫛由之)

山鳩の骸いとしくつつみこむ昨夜(きぞ)からの霧雨の甘さよ

001:新(有櫛由之)

梅の木に梅の花だけ新しく 悲しみさへも朽ちるかと問ふ