2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧
シトラスの光は未明ともされて滅びの朝の窓をいろどる
ひとりだけ奇妙に濡れた影をひき「それは遠く」と思ったのです
北国の不思議な話を水鳥の声できかせてくれる老人
忘られし梨の実に雀蜂ありておきをつけよといひてうなりぬ
蠟製の果実をかはす をのこらはたがひに仲間とよびあひたくて
遅霜の傷も嘆きもおぼおぼと柔くつつみて春の蓬葉
だれにともなく綯ふ愛のものがたり声音の同じ人より聞きぬ
セン闘いんとしての日々にも歯車のひとつヒトツと毀レテユキヌ
うすらひはあさの日にはやとかされぬ彼は名付けられなかったものたち
静謐の仕事のあとの鴉売り ゆめのほうでは林檎うりをり
白い薔薇吐きだしつくし伏した人 おまへやさしいひとだつたねえ
しほからいたましひ青暗(あをやみ)に零し更夜下弦の月に掬はる
熱帯の驟雨赦せよほつほつと孤独に燃ゆる極楽鳥を
ささぐ手に享くる氷水(ひみづ)よわづかとはいへどわづかに鹽含みゐて
白鷺のしき降る夕べ草笛を習わなかった吹きかたでふく
呼んだかい?降りそむ雨を見上げつつ賞金稼ぎのような泣き顔
春の野にテーブルと椅子向かひあひ それぞれの脚 それぞれの花
うつつにも夢にもうすらひのなごり朝瞬きのメジロまぶしも
ゆるやかな別れ道ならそれぞれに(種を蒔きたい何の種でも)
嘴太に入場券を攫はれて遠い山だけ眺めっぱなし
夕空に不在を叫ぶ紅椿一輪の咲きたちまちに散る
やがてやむ春のむら雨ははそはの子を抱くかひな白きもかすみぬ
駅ビルのエレベーターは各階に開けっぱなしの群ホトトギス
山鳩の骸いとしくつつみこむ昨夜(きぞ)からの霧雨の甘さよ
梅の木に梅の花だけ新しく 悲しみさへも朽ちるかと問ふ