my favorite songs 003:散

三題目は「散」
散りゆく花のイメージは詩情を呼び起こしやすいが、そのぶんありきたりなテンプレート感もつきまとう。
変化球では「散歩」「散髪」「龍角散」と球を散らしてきた方もありました。

自作
くりかえすただくり返すこととしてチル散るミチル海もサクラも

永遠に循環するものとして「海の満干」と毎年咲いては散る「桜」の普遍性を並列してみました。
それぞれ日と年という異なったスケールの円環で無限ループっぽく。
単語の反復も同じ狙いですが、効果はどうでしょうか?
桜がかぶりまくったのは想定内としても、『ちるちるみちる』がかなりかぶってたのはショックでした。



七首の秀歌たち。



散りきはの白椿なぜわたくしはかやうに此処にゐますものやら  (小夜こなた)

終盤にさしかかった人生を振り返りつつ、孤独な寂寥感を忍ばせて庭の白椿に沿って佇つ。
諦観が深いにもかかわらずむしろ清々しさを感じさせるのは、『ゐますものやら』という柔らかい物言いの効果でしょう。


散善も善と言はれてわらわらと無縁佛に花瓣を積む (酒井景二朗)

『散善でも善』みたいな仏教特有のゆるっぽい教えをふと思い出して、多分近くに落ちていた山茶花かなんかの白いはなびらを積む。
とても受動的な行為として、遠慮しながら善を為している感じです。
このあと和尚さんに見られて、ちょっと照れながら言い訳したりする。


「きれいだね」「きれいだね」って言いながら散った花びら踏みつけて行く (稲生あきら)

舞い散る花びらも、地に落ちた花びらも同じもの。にもかかわらず、あるいは愛でられあるいは踏みにじられる。
小さな発見を緒として詠まれた歌だが、そのなかで無垢な恋人たちの無邪気な残酷さが際立っている。


散髪を済ませたあとの少年の首すじ細く闇に浮きたつ (紗都子)

少年美を描写した写実的な歌です。
かるく刈り上げられ、際剃りされた清潔感漂う首筋の青々とした妖しさが美しく、散髪による脱皮で生々しさを増した少年に微かな禁断のエロスも感じさせる。


おとうとの胸のちいさなくぼみには散弾銃の火薬のにおい  (くろかわさらさ)

こちらも禁断の少年愛が匂います。しかも近親相姦。
生まれつき弟の胸に窪みがあって、それを姉弟で『散弾銃の跡』として秘密を共有しているのでしょうか。
そしてときどき二人で確かめ合う。


昨日今日見つつ触れずに目的もなく愛でていた梅の花散る
 (北爪沙苗)

『愛でていた』とは言いながらもそんなに大事にはしていなかったのに、花が散った瞬間に梅の花への愛情が噴出してきた。
瞬間的な気持ちの変化がうまく表現されています。


桜ではない花が散る6月も誰かの中で何かが終わる
 (つばめ)

二句目で切って読みました。
一見関連のない事実を二つ並べて、引いた目線で見ることにより、悲劇も乾いた物となる。
身近な人の落胆に声を掛けられない無力感を客観化している状況か。