my favorite songs 007:驚

今回も強い言葉、『驚』が題です。
美しいものを『美しい』と表現しても短歌にならない以上に、驚きをそのまま『驚いた』などといってしまったら、あっというまにダサダサ。これも難しい題でした。


自作

月だけは見えると歌う盲人の話を驚きもせずに聞く

土俗的、神話的なシーンをイメージした歌です。
題詠で百首詠んで一番の反省点は、特定の語彙ばかり使っているということなんですが、『月』はその代表選手。
シロートゾーン脱出のためにはなんとかせねばと思うとります。


皆さんの歌から六首。


背骨から驚きましたと報告を受けて二月の恋を受理する (玉村 一)

意外な人からの告白を受けて、脊髄反射でOKしてしまった、というところでしょうか。
驚きながらも何とか冷静・事務的に処理しようとして『報告』を『受理』する。
戸惑いぶりがうまく表現されています。


驚いたふりをしているふりをした 夜顔という花の名を知る (佐竹弓彦)

上の句で、結局驚いてるの?驚いてないの??何に?と?だらけにされて、その理由が『夜顔という花の名を知』ったためとあかされる。
朝顔、昼顔、夕顔は知ってるけど、夜顔、え、えぇ、あぁ。という感じでしょうか。
下の句との距離感がほどよく、困惑の余韻が後を引く歌です。


驚いているのか、お前泣きたいか? 傷から蜜がしたたっている (村上きわみ)

ダントツで好きな歌です。
サディスティックに突き放す台詞の上の句と、エロティックともとれる状況を示す下の句。その距離感、バランスが絶妙です。
『傷から蜜』をしたたらしているのは『お前』なのか、それとも『お前』に傷つけられた台詞の主か。
後者ととりたい。


春風に驚かされていつまでもビヨヨン運動してる信号 (新藤ゆゆ)

普段は規則正しい、決められた動作を確実に行う信号機。それが春一番の突風に揺らされて『ビヨヨン運動』をしているという非日常をコミカルに切り取った歌です。
永遠に震えていて欲しい。


蟻の行列があなたに続いてて少し驚いただけなのです (フユ)

『あなた』への甘い感情を蟻に気取られたのか。
糸でしっかりと結ばれているわけではなく、蟻の行列という曖昧な点線で繋がっているんだかいないんだかわからない状態の不安感がいい。


効率よくマイナスイオン浴びるため驚いた顔ずっとしてんの (じゃこ)

口を半開きにして斜め上を見ながらじっとしてるんでしょうか?
というかそれでマイナスイオンを効率的に浴びられるの?
『してんの』というつっぱねた語感が人知を超えて猛烈にいい。