題詠ブログ2014 まとめ

(001:咲) 散り際の火こそくれなゐ咲み昏い汝に夭折兆さざりしも (咲:ゑ 汝:なれ)
(002:飲) 酸は淡く春風にひそみ飲食もしづけきひとのはなむけとなす (酸:す 飲食:おんじき)
(003:育) 身のうちに琉金ひとつ育める乙女かつての春を超ゆらむ
(004:瓶) けぶりたるモロゾフ瓶に一茎の水仙ドン・チェリーの短筒
(005:返事) かすれつつ返事は絶えて残さるる花の名と青臭き口臭
(006:員) さみどりに澪ひく波を寂しみぬ 古甲板員みたび娶りき
(007:快) 冬蝶の屍はゆきなづむ不愉快な腕は川に沈めてあげる (屍:し 腕:かひな)
(008:原) 還りこぬ赤きベスパの原形を奪ひつくして花アーモンド
(009:いずれ) ふゆに濡れいづれの世にかそばにゐたひととも思ふ朝のあをさぎ
(010:倒) なつかしい土に倒れてハルジオンその朧なるべにをよすが
(011:錆) あけなづむ藍錆色を背に月をほろびの女王として慕ひたり (女王:わう)
(012:延) 延延とばかげた話するだらうぼくら歪んだシリウスの眼で
(013:実) 物語。くるった種をはらむ実を懐かしむほど花赤く咲く
(014:壇) 廃校に種を散らして鳳仙花花壇のことは忘れてしまふよ
(015:艶) 廃天使憂ひの頬に照り返る凌霄花にわづか艶めく
(016:捜) ふるゆきの白痴少女は毒花を捜せよとこふ夏の蔭濃し (少女:をとめ)
(017:サービス) 玻璃色のキョムの追加はサービスで知らない森の獺料理店 (獺:うそ)
(018:援) (お姉さま援からないね)北を指すなかば乾いた旅人の跡
(019:妹) メドゥサはいちばん妹かなしみとあいの違ひがわからなかつたの
(020:央) うづめたわ。さみだれ昏い柔土の中央分離帯妻籠
(021:折) むせぶ香の断絶として驟雨いな烈雨ののちに小百合折れ伏す
(022:関東) 知らぬみち通ひて来しか一株の関東蒲公英ひとはしらずも
(023:保) ゲットーへあまりに赤き日は墜ちて血の冷たきを保てずおまへ
(024:維) かつて(明り)と呼ばれしは一束の繊維のうちにつながり、(滅ぶ)
(025:がっかり) 夏中でがっかりしてゐる少年にあげたい一つ、すかしかしぱん
(026:応) 細長き物の歯応へ二玉もよし讃岐三月のかまたま
(027:炎) きぬぎぬをかたく拒めるをみなごの情炎は口許に、やどる
(028:塗) 白罌粟の白塗りかさねさきの世の恋人おもふまま午睡醒め
(029:スープ) 花びらとスープは違ふ 翼あるものにやさしく歌ひをしへる
(030:噴) 青とほし噴上げの風不意にして疾しあるいは洗ひ朱の兄
(031:栗) おそろしき闇は真夏の日盛りに栗の香消え入るほどのますらを
(032:叩) 真っ昼間アップライトを叩きつつ(You make me)feel like a natural woman[貴様の為に吾はをんなよ]
(033:連絡) 敗戦の連絡抱へ鳩は翔ぶ妻に金雀枝一枝くはへて
(034:由) あるいは声低くかすれて聞きたがふ由なき兄のアンタナナリボ
(035:因) きさらぎのをとこと因りをもどしけり梔子にほふ五月闇の辻
(036:ふわり) をさな子の手もとのたんを離れたるポポよふはりとなか空わたれ
(037:宴) さんざしの宴は果てて谷の陰あるいは流れあるいはよどむ
(038:華) うす曇散華の蓮の珊瑚朱に掻き傷ほどの見覚えがある
(039:鮭) 団栗に飽きたら鮭を喰ひませう穴のことならしばし忘れて
(040:跡) とほとほと霰降る夜の手習ひのこれは疵跡これはくちぐせ
(041:一生) 沙羅の花拾へる僧の頸白しふと一生てふ距離をたがへむ
(042:尊) 二日月抱かぬままに月弓尊の声を倣ねてゐました (月弓尊:つきゆみのみこと)
(043:ヤフー) アリタリヤフールプルーフ・ルール午後およそ止まった機影に見入る
(044:発) 春凪の油の海は発光す世をたがへゆく船を惜しみて
(045:桑) あたますきとほり死にたる桑の子を小さき手もて葬る春の夜
(046:賛) 白南風は山を渡りて筒鳥のとぼけた賛歌淡く谺す (白南風:しらはえ)
(047:持) 心持ち涙みだるる緑川流れなづみてときはへにけり
(048:センター) 淡路島モンキーセンター頂に漢[をとこ]あり選挙に拠らずも猛し
(049:岬) 青鷺が二羽飛んでゆく 恋だらう岬から見る波がうるさい
(050:頻) かりょーびんかりょーびん頻降る嘘のさんざさざめく木洩れ日を浴ぶ

(051:たいせつ) たいせつは忘れちゃったよ若草の野に靴下を脱いで踏み入る
(052:戒) 戒は純白にひそみ無垢ならぬたましひ百日紅に弾けつ
(053:藍) 蒔きしまま忘れてをりし韓藍に指を焼かれつ 妹のおもかげ
(054:照) 油照り片陰深い参道の滂沱の僧に見覚えがある
(055:芸術) のどぼとけさぐる指先第七藝術劇場のエレベーターはゆるゆる降りる (第七藝術劇場:ななげい)
(056:余) 死ねば泣く人なかぬひとより分けて余白をうめてさみしくなりぬ
(057:県) 日本に佐賀県のあり滋賀県もあるといふことやまとに思ふも
(058:惨) 少年の惨酷物語に鳥よ迷ひこむなよ赤い眸で
(059:畑) ひさかたの雨歌に声かすれつつ胡瓜畑を歩く嘴細
(060:懲) 人らみな懲らしめられよたちまちの月光よわが悪意曝せよ
(061:倉) 中埠頭穀物倉庫の鳩たちに囲まれたのが夏の思ひ出
(062:ショー) あまとぶやショート鳥谷ひるがへりベンチまで二十秒の横顔
(063:院) 夕べは秋となに思ひけん霞みつつ島影うつる院の隠岐の海
(064:妖) 消え残る恋とも思ふ薄月に妖しくこぼるる白萩の露
(065:砲) 夕暮に艦砲射撃空耳す浜風に足跡薄きこと
(066:浸) だらしない女はしかも善人で蜜に浸したパンさへくれた
(067:手帳) 青き蛾の栖まふ手帳に名をひとつファム・ファタールと添へて書きにき
(068:沼) 同じ沼持つ人でした切花の蓮の蕾にささやく嘘を
(069:排) 発つ蝉の排出物を顔面にきらきらと浴び虹を超える子
(070:しっとり) 天窓の月にしつとりひとり寝のシーツ遙けき航路をうつす
(071:側) 初時雨 側臥の犬は立去りて空虚を黒き斑につぶす
(072:銘) 青青と鋭きままの曼珠沙華伐りて無銘の碑にぞ手向けん
(073:谷) 谷渡る鶯の音に驚きてうつつに戻る霧の白峰
(074:焼) アルコールランプの蒼き火もて焼く栄螺に泡はふつふつと来つ
(075:盆) ほつほつとともし火消えて地蔵盆の子らの声こゑあはく残りき
(076:ほのか) かなしびといふ火のありてししむらにさすうす緑ほのかほのかに
(077:聡) 天の窓越え美しき大麒麟 生きるものみな目聡くあれよ
(078:棚) 秋の日の剝いた甘さの葡萄棚くぐる透羽蛾ひとに知らるな (透羽蛾:すかしば)
(079:絶対) あれ何処へいつたでせうか絶対に開けてはならぬ箱でしたけど
(080:議) またせたね、黄色い風が不可思議の種をどこかの国へ運ぶよ
(081:網) 地図買ひにゆけば北風とよもして天網の目に水青ゆらぐ
(082:チェック) トラベラーズチェックって何アフリカの白地図をくり返しなぞりて
(083:射) 茜さすマット・マートン射干玉のゴメス並びて颪衝くかも
(084:皇) 皇帝ペンギン飼育係の定年に月見草一鉢が青みて
(085:遙) 銀漢やそらみつ大和遙かなる大地を駆け掬ふ大飛球
(086:魅) ゆふづくよ暁闇に鬼魅とゐてやさしき嘘をささやいて吐く
(087:故意) これはもう故意なのでせうまた駅であなたがかすか微笑んでゐる
(088:七) 夏空に赤き人魚を食みしより七百九十九年 かなしい
(089:煽) 飴色の風に煽られ一面にねこじゃらし柔らかき背中よ
(090:布) 暮れ際の布袋葵をつっついて期待の意味を思ひだしてゐる
(091:覧) 秋の花(紫色)の一覧の山辣韮に泡盛にほふ
(092:勝手) まちがって今朝買ってきたカブトムシ勝手に標本にしやがって
(093:印) 思ひ出にしたたったのは誰の水嘘の印を幾つも残す
(094:雇) 朝な朝な皺皺の手に雇はれてにぼしの頭享くる日溜まり
(095:運命) 波際に指輪を放ち丁寧に運命線の縺れをほどく
(096:翻) 虚空へと無地の黒旗翻り身を裂くほどに鵙猛るはも
(097:陽) 冬凪のにぶき光のかぎろへるみぎはを山陽電車揺れゆく
(098:吉) 団栗が額にあたるは吉兆と思ひましたが違ひましたか
(099:観) この空が観測気球の沈降をかよはき電波もて語りあふ
(100:最後) 臘月の最後の一人として朝を小窓拭きつつ迎へてゐます