題詠ブログ2013 100首

新:梅の木に梅の花だけ新しく 悲しみさへも朽ちるかと問ふ
甘:山鳩の骸いとしくつつみこむ昨夜からの霧雨の甘さよ 昨夜:きぞ
各:駅ビルのエレベーターは各階に開けっぱなしの群ホトトギス
やがて:やがてやむ春のむら雨ははそはの子を抱くかひな白きもかすみぬ
叫:夕空に不在を叫ぶ紅椿一輪の咲きたちまちに散る
券:嘴太に入場券を攫はれて遠い山だけ眺めっぱなし
別:ゆるやかな別れ道ならそれぞれに(種を蒔きたい何の種でも)
瞬:うつつにも夢にもうすらひのなごり朝瞬きのメジロまぶしも
テーブル:春の野にテーブルと椅子向かひあひ それぞれの脚 それぞれの花
賞:呼んだかい?降りそむ雨を見上げつつ賞金稼ぎのやうな泣き顔

習:白鷺のしき降る夕べ草笛を習わなかった吹きかたでふく
わずか:ささぐ手に享くる氷水よわづかとはいへどわづかに鹽含みゐて 氷水:ひみづ
極:熱帯の驟雨赦せよほつほつと孤独に燃ゆる極楽鳥を
更:しほからいたましひ青暗に零し更夜下弦の月に掬はる 青暗:あをやみ
吐:白い薔薇吐きだしつくし伏した人 おまへやさしいひとだつたねえ
仕事:静謐の仕事のあとの鴉売り ゆめのはうでは林檎うりをり
彼:うすらひはあさの日にはやとかされぬ 彼は名付けられなかったものたち
闘:セン闘いんとしての日々にも歯車のひとつヒトツと毀レテユキヌ
同じ:だれにともなく綯ふ愛のものがたり声音の同じ人より聞きぬ
嘆:遅霜の傷も嘆きもおぼおぼと柔くつつみて春の蓬葉

仲:蝋製の果実をかはす をのこらはたがひに仲間とよびあひたくて
梨:忘られし梨の実に雀蜂ありておきをつけよといひてうなりぬ
不思議:北国の不思議な話を水鳥の声できかせてくれる老人
妙:ひとりだけ奇妙に濡れた影をひき「それは遠く」と思ったのです
滅:シトラスの光は未明ともされて滅びの朝の窓をいろどる
期:ひさかたの月夜に醒めしおとひとは初期設定の睛もて笑まひぬ
コメント:パブリックコメントを告ぐる歌声の霞みて淡く天使めきたる
幾:白骨の色のあかりが幾重にも降りしく夜にひとは黙する
逃:なつかしい目をした魚に告げられて南へ逃げる兄と妹
財:波際に黄色い財布照らされつ しあはせなどは入つてをらねど

はずれ:長楕円軌道ははずれ行先を失くした朝にはつか鳴るテレフォン
猛:春雷の後の尖晶石の日も猛毒は何処に潜まむや
夏:大腿に退廃兆す初夏の飛沫したたる鉄と火と血と
勢:カメリアの蘂にまびれてをとめごは緋の勢ひに越ゆる、何橋?
後悔:ことだまよ あるいは蘆原(あはら)の青鷺よ 後悔さへも追風の小夜
少:山姥のかたりはやまず夕づつのあかりも少しすぎたる夜寒
恨:春蝶の蛹を背負ふとが人のなにも恨まぬ蒼き眸は澄む 春蝶:はるてふ
エス:焦がれゐし少年イエスに逢ふもかなはず春ひさぐひとのやさしさ
銃:古書店に潜む銃身黝黝として原色硬骨魚類図鑑
誇:甘い針にわづか誇りを柔らかい触角に蜂、滴る愛を

カステラ:カステラを知らない国に伝へたい そのくにの子をいつくしみたい
若:上甲板に若き気象観測士は一本の燭、三時「遠雷」
慣:カラダにはまだ慣れなくて。草の音で ものがたり、とくちびるに漏る
日本:日本に百万回の猫のをり一度だけ木蓮として散りしも
喋:喋らないカケスあるいは告解は真昼の巻積雲に溶くらむ
間:ポワンカレつづきの予想つぎつぎとはずれはずれて 束の間の雪
繋:花びらの列は蟻へと繋がりて折りたたまれて穴にしまはる
アルプス:托卵の鳥の心のはしきやし北アルプスに甲高き声
括:縞蛇はかぜに括れてくるくると翼ひろげる間際の天使
互:波どめにとほくあじさし刺繍針互ひに恃むものあるたましひ

般:一般相対性理論でゆってもオレのほうが速いって、ナカジマ
ダブル:パンくずをこまかく投げて鳩たちにダブルプレーシフトを教へる
受:あさ晴の岸遅霜に縁どられ佇ちたる嘴広鸛受難図
商:ふる雪の白ふくろふのペレットを売る商人の指ふふまむ 指:および
駄目:伏線は回収されない方がいい(マークシートが駄目な言ひ訳)
善:ハトにパン、くらいしか思いつかなくて善人になるのをあきらめる
衰:ゆつくりと衰へてゆく塊は水溶性の禽の魂
秀:(優秀な苹果のあるやあらざるや)山椒喰ひはさんしょくらはず
永遠:えいゑん、と寝言でうたふ駒鳥の胸の羽毛にやどる永遠
何:あたたかい雨を迎へてわたくしの何とはなしにはれそむここち

獣:朝靄もきれざる森に獣の息濃しこいくれなゐの鼻血も 獣:けだもの
氏:南海のきりぎしにシュテンプケ氏の平和祈念はとどかざりにき
以上:めくるめく たとへば愛の物語泥にうづめる以上でもなく
刑:高高と際限のない揚雲雀 焚刑ジルの魂の玲
投:間投詞ひとつ残して帰途につく 生きてをるねえ蜻蛉も祖母も
きれい:人ならぬもの恋ふこころゆで卵きれいに剥きてふいにも毀つ
闇:まどろみに闇澄みわたり言の葉は蛍のとぼるやうにうまれぬ
兄弟:南海に暴風警報 直立のペンギン兄弟ともに撫肩
視:しらしらと視界をみたすそれは雨あるいは意味をすてたくてふる
柿:緑陰にひとつ言ひ訳柿の花風なきほどもしかすがに墜つ

得意:まひるまのゾンビですから弱点も得意料理もなにもないのに
産:霧雨は木陰にも降り産卵の記憶をそっと翼にたたむ
史:あれはもう歴史でしたか瑠璃色の羽舞ひ散つた一生のかぎり 一生:ひとよ
ワルツ:テーブルにワルツを舞へば絡みあふ指とゆびさき 飛ばせはしない
良:森閑と降る羽を見守る役割の 滅びの夢はすべて良き夢
納:夕べにははや雷鳴も納まりていづちの祭囃子まがなし
うっすら:飛行蜘蛛のうっすら糸を引くここち乾いた風はどこへ吹く風
師:かささぎの不渡り二号途絶えしてあはれ詐欺師の恋は知られず
悪:遠き日の悪戯を思ふときの顔は夕映の陰ニッポニアニッポン
修:少年は阿修羅のごとき憂ひして蜻蛉の竿にあゆみよりたり

自分:自分ノコトはじぶんでするし手羽先の骨の間もきれいに食べる
柔:木曜のひざしは少し柔らかく秋の雀のまるきを愛すも
霞:朝凪にあさ霞する波際のすずろ千鳥の未だ行かざるに
左:夕焼けの終る時間に恋人を左眼だけ見てはいけない
歯:蒼さとは何の報いか 消え残る下弦の月に奥歯もしみる
ぼんやり:ペンギンとつぎ出逢ふこと氷河期のこと しろくまはぼんやりと、窓
餅:問6のツキノウサギとハツユキの最大公約数って餅かな
弱:風弱シ のたりうねりに引く水脈に水薙鳥の影をうしなふ
出口:あを深しあらぬ出口に木犀の香は立ちのぼる 五位の眉さき
唯:泣きさうな子供が掴みそこなったトビの影 あれは唯のうみかぜ

鯨:十月の鯨の夢を聴きました 夕べ別れた人と見る花
局:肩広の通信局長二枚舌なれど呂律のロマン・ローラン
ドア:開いてはいけない方のドアでした さきがけとして降る雪の見ゆ
衆:桔梗の青睛に痛し衆道の短き滾り百舌鳥の早鳴き
例:くらげなす漂ふ愛の物語り例へば知られなく畢るとも
季節:にくしみとふ言葉をそっと蜂鳥に恋の季節のたびにをしへる
証:ひきかへに失くした声の証にはとても小さき桃色の貝
濁:ゆっくりと濁りゆくなか(クレマチス)恋人の名も思ひだせない
文:秋の日の弱まりゆくにひとひらの仮名文字の散る、人はかなしい
止:謂ひ止した言葉にさへもことだまはゐて消えかかるこゑの告天子 止す:さす