題詠ブログ2012 まとめ

【001:今】刈萱も悲し今手に償いの靴にて舞いしなかも焼かるか(回文)
【002:隣】南風つよい晩には隣からもれ聴こえくる atar a la rata[鼠捕り歌]
【003:散】くりかえすただくり返すこととしてチル散るミチル海もサクラも
【004:果】双の手に薄き果集め山羊飼いは山羊飼いとして草原に佇つ
【005:点】あおあおき空よ東に上がる観測風船は点と消えゆく
【006:時代】低温の時代に僕ら飽食し終齢幼虫ははりさけていく
【007:驚】月だけは見えると歌う盲人の話を驚きもせずに聞く
【008:深】産まれなかった卵らの降り積もる深海底に月は輝く
【009:程】最終の観測終えて夜の程ろ 目覚めぬ街を高きより見る
【010:カード】わたしだけ色が違うの図書館のカード わたしだけチ・ガ・ウ・ノ・ッ!

【011:揃】隠らし身北極さ虹の色揃い 野路に咲くよき蕾白ぐか(回文)
【012:眉】早梅の風は眉毛に柔らかく昨日交わした嘘も忘れる
【013:逆】キミが鷺ボクが魚たる世もありて逆しまのことも幾度かあり
【014:偉】いにしえの偉い魚の棲むという湖に潜り記憶失う
【015:図書】この町のカードはキラとゆらめいて図書館建設予定地のごと
【016:力】歯の多き男の腕力もて今日の利便を支えておりぬ
【017:従】風のない暁月夜 足弱き絹猿従えてゆくだろう
【018:希】いさなとる希薄の海の砂に佇つ土踏まずから縷々ともれつつ
【019:そっくり】昨日むいたミカンの皮にそっくりと面と向かって言うのはよそう
【020:劇】商店街横大劇場の前を過ぎつと名画座へ入る貴婦人は

【021:示】黙示録朽廃の音は夜括るヨハネの祝う雪 黒し雲(回文)
【022:突然】「本当はみつごにうまれたかったの、ふたごではなく」って突然に
【023:必】雪面の兎の跡か必然はノースエンドに白く白く消ゆ
【024:玩】白いのはたぶん玩具かカタパルト 海豹の母はそっと教えた
【025:触】今朝はやく食われることを知りました どうか、ぼくの、義歯に触れてよ
【026:シャワー】月夜には育てちゃいけない(そんなもの)そっとシャワーに流してしまおう
【027:損】風雪で損傷しました飛べません 肩胛骨を気遣いながら
【028:脂】脂取紙で折ったら脂鶴千羽並べてあとはきたかぜ
【029:座】星空の下旅僧は流されにくいものらのために座っていた
【030:敗】蟷螂の間合いに居るということに気付いたときのああ敗北感

【031:大人】子供にはなりきれなかった大人らの寓話という寓話をあつめて
【032:詰】カラフルを詰め込んでいく空箱がざわつきだした瞬間に春
【033:滝】「こんにちは魚屋ですか」滝壷です「ごめんまちがい」多分へいき
【034:開】南方で聞きし目白の囀りは澱のましろき悔いを騒がす
【035:むしろ】むしろ悲しき春の嵐に耳を立て輪郭にじむ路地の黒猫
【036:右】神す代の右にもおはす民の名の乱すは面にきみの寄す身か(回文)
【037:牙】約束の牙をあげよう たよりないおもいでとして紙につつんで
【038:的】お互いに鰓少しずつ食いあって淡水魚的対処法だね
【039:蹴】天高くラグビーボール蹴り上げてそのまま消えていく鰯雲
【040:勉強】「蕎麦打ちの勉強」とだけ残したる十年ぶりの父 今朝帰る

【041:喫】寒風の喫煙席に身を沈め「愛でたばこはやめられません」
【042:稲】風の歌が得意な姉は音の無い稲妻聞いて飛び出したまま
【043:輝】夜の海あと幾千の輝きが残っているか仮定してみて
【044:ドライ】三年に一度途方もない嘘をつくドライアイスかじる福田は
【045:罰】血はめぐるただ千年の罰として 赤き桜桃また一つ熟れる
【046:犀】ぼくのさいは普通の犀より小さくてでもいぬよりはずっとおおきい
【047:ふるさと】ふるさとに今朝降ることにした雨のためらいこごえ雪とうつろう
【048:謎】石化した月の光に謎めきて嘴濡らす高枝のヒト
【049:敷】柔らかい蛹をそっと敷きつめてとおい、遠い声を待ちます
【050:活】鰓呼吸を活かし潜るは波女 春雲、視界追う雪、子らへ(回文)

【051:囲】たとうればあやうい青のまなざしに囲まれ、それが蛙のようで
【052:世話】ながいこと世話になったと海に降る雨ならやがてヒトデとなりぬ
【053:渋】ゆるゆるとマリアナ海溝沈みゆくチョウチンアンコウの渋面を見つ
【054:武】鉱物はたちまち熔けよ あかねさす玄武岩[バサルト]流る土地は怒りて
【055:きっと】単線を春の過客は行くだろう明日はきっと帰るであろう
【056:晩】「どっちかっていうと晩ごはんだよね」赤信号待ちながらキミは
【057:紐】晴れる紐、雨の降る紐あるだろう 目を閉じてゆっくりと引いてみる
【058:涙】バファリンと一緒に飲んだ水たちのかつて涙であった可能性
【059:貝】桜貝ひとつさざめくさみしさの単位でかぞえうらんでおくれ
【060:プレゼント】輪郭が薄まっていく舟に乗り思い出せないプレゼントあげる

【061:企】朝露に張り替えられたる蜘蛛の巣よ 決して実行されぬ企て
【062:軸】キミが傘ボクが軸だけ選り分けてくつくつ静かな雨の日の鍋
【063:久しぶり】白魚の手のような魚を震う手で久しぶりならそっと掬うよ
【064:志】海峡を連なり渡る志願兵 父のシルエットを探しつつ
【065:酢】キラキラと小鉢にゆれるもずく酢のおもいでなんてあったっけオレ
【066:息】終末の吐息若葉の霜となり光に消ゆるまでのたまゆら
【067:鎖】切り口の錆びた鎖を見ています。もう十年が過ぎていたのか
【068:巨】巨きさの中に虚ろが育まれすべてがのまれていくようなこと
【069:カレー】前世紀なかばに証明済みのこと「ファンタとカレーはあわない」を、今
【070:芸】ゆる坂に温泉芸者つらなりて消えゆく先の連続鳥居

【071:籠】のはなつむひめのみことの春籠の匂いや淡し毒花もまた
【072:狭】縁取りの狭き畦道夕暮れの子守唄溶く森の色も
【073:庫】異常乾燥注意報の無人島で火薬庫ひとつかかえてくらす
【074:無精】生きのびることに無精な獣らは流氷の上瞳孔も透く
【075:溶】流氷が潮に痩せゆきその上のペンギンも半ば溶けかけている
【076:桃】金のでも銀のでもなく桃色の桃と答えて桃をもらった
【077:転】苔石の転がりてまた十年の坂道登るときの鼻歌
【078:査】深海を探査するため深海に潜るしんかい6500
【079:帯】草帯を解きつ匂えよ處女らは膝寄せあって摘まるる不穏
【080:たわむれ】西の雲疾き朝にはたわむれに数歩踏み入る蜘蛛の領域

【081:秋】哀しみの結露秋雨前線はまだ染めやらぬ紅葉より出づ
【082:苔】二年ほど塔を昇りつづけてる螺旋の床は苔むしてくる
【083:邪】邪な左目を閉じ火加減を見る煮卵の火加減をみる
【084:西洋】たよりない男の息吹西洋化食い止めんとて綿毛吹く吾は
【085:甲】銀傘の下は高いぞ甲子園ライトスタンド中段から見る
【086:片】片腕がピーピー豆に絡まって立ち上がれない土へ還ろう
【087:チャンス】チャンスにはピンチヒッター出てきますピンチのときはベンチにいます
【088:訂】おもむろに訂正された顔をして斜め後に跳んだ蛙よ
【089:喪】むごいほど底無し色の喪失よ五月の空の五月の傷の
【090:舌】たよりない舌先だけの記憶しか残っていない 小匣を閉じる

【091:締】靴下を脱いで乳房を踏み締める少し異なる感触のする
【092:童】気がつけば童話のような森に居りもう一度閉じたほうがよさそう
【093:条件】いくたりの花持つひとの連なりて条件反射としてふりかえる
【094:担】薄暮亭何色の夢吐息つき糸目ゆ呪い担いてぼくは(回文)
【095:樹】ハルニレの樹には涙をやるがいい祖母によく似た声に告げられ
【096:拭】はらからと横たふゲヘナ遠ざかる音に隠れて口元拭ふ
【097:尾】ひいやりとした下半身たぶらかすかつて尾びれが震えたあたり
【098:激】ところにより一時激しく降るでしょう例えばそれが愛であっても
【099:趣】憂寂の午にはひるの趣が ぬるい芒果一口喰らう
【100:先】この先はあらゆるものが透明でむろん猫らもとうめいでしたよ