042:特(有櫛由之)

さ乱れに黝き形なす特牛ゆめの彼岸に歩み止めたり 特牛:ことひうし

041:扇(有櫛由之)

今日は左手の薬指で中の強さの扇風機を止めました

040:清(有櫛由之)

岩肌の玄を湛へて真清水のたまゆら震ひ彌勒めくかも

039:せっかく(有櫛由之)

陽あたりにせっかく咲いた芍薬を剪る六月の水の昏さよ

038:読(有櫛由之)

葩をふふみて唇を読みあつて長い名前の虫をかぞへて

037:療(有櫛由之)

療養の鯉は痛まし暮れかかる水面をはつか乱すあめんぼ

036:バス(有櫛由之)

細道はきりぎしに沿ひて見送りしバスは岬を出でつ隠れつ

035:液(有櫛由之)

ゆるゆると液化してゆく鰐の背のやうにゆくりなく耀ふ比喩

034:前(有櫛由之)

草矢手に少年一騎駆けの夢前川に菜の花の黄揺る

033:逸(有櫛由之)

つまり懦夫ひとりに予報されざりし雨は逸れずに降りたらむとよ

032:昏(有櫛由之)

五月闇わづかに昏きほほゑみに何処より匂ふ栗花かなしき 栗花:りつくわ

031:認(有櫛由之)

おまへより大きく剥けたゆで卵の殻だ認めるだらう、おとうと

030:物(有櫛由之)

五月雨に脆弱性は兆しけり矢庭に植物図鑑伏せむ

029:尺(有櫛由之)

尺蠖は伸びつつ吾は蹲みつつ五月 愁ひをうらがへしをり

028:改(有櫛由之)

さきのよの火付盗賊改が幽かに兆すますらをの眉

027:ダウン(有櫛由之)

デタントもスローダウンの初夏の熟寝の間にも梅は熟れつつ 熟寝:うまい

026:湿(有櫛由之)

碕といふ土地に生まれて汝が髪の先はかすかに湿りてゐたり

025:さらさら(有櫛由之)

春旱 船出の澪の細細にさらさら崩ゆる果てし思ほゆ 細細:ほそほそ

024:真(有櫛由之)

瓶詰となり鮮らけし酢のすみれ真青なるものをのこを殺む

023:柱(有櫛由之)

円柱形(エンチューケー!)と歌ひつつ新神戸トンネルにのまれる

022:砕(有櫛由之)

沖つ辺の砕波の白を縫ふ如く風遊びする鷗いとしも

021:小(有櫛由之)

をさな子の小さき爪のさくらばな風は散らすよ風よ散らすな

020:亜(有櫛由之)

白亜紀やジュラ紀に栄え滅びたが子供たちには人気が残る

019:靴(有櫛由之)

足裏に刃のある靴を装着し氷上を滑る野蛮な行為

018:救(有櫛由之)

火事を消すための自動車。救急車、ショベルと並び子供に人気

017:画面(有櫛由之)

行先を教へてくれる車載機器。画面に見入ることは避けたい

016:荒(有櫛由之)

大荒れの天気となるが中心は無風。無性に張り切る人も

015:衛(有櫛由之)

八兵衛ほか二名を連れて旅をしたと云はれているが史実ではない

014:込(有櫛由之)

ここでない何処かの事。「込み入つた話はどうか――でしてくれ」

013:刊(有櫛由之)

毎朝夕刊行されてをり記事は事実であるとみなされてゐる